小説「新・人間革命」 8月16日 宝冠28
五月二十七日、山本伸一の一行は、午前十時前に、モスクワ大学を訪問した。
この日、モスクワ大学では、ゴーリキー記念図書館での書籍展示会に始まり、伸一に対するモスクワ大学名誉博士の称号授与式、「東西文化交流の新しい道」と題する伸一の講演などが予定されていた。
名誉博士号の授章の話を伸一が聞かされたのは、モスクワに到着してからのことであった。宿舎のホテルに、同大学のV・I・トローピン副総長が訪ねて来たのである。
「二十七日の、わが大学での講演に対し、心から感謝申し上げます。
実は、この講演の前に、山本先生に、名誉博士号をお贈りすることになりましたので、お伝えにあがりました。この授章は、山本先生の文化・教育交流と平和運動を高く評価し、厳正な審査を経て、わが大学の教授会で決定したものです」
同行してきたモスクワ大学のストリジャック主任講師が、それを訳して伸一に伝えた。
栄光あるモスクワ大学の名誉博士号である。彼らは、伸一は喜んで受けるものと思っていた。しかし、返ってきたのは、予想もしなかった意外な言葉であったのである。
伸一は感謝の意を表したあと、こう語った。
「大変にありがたいお話ではありますが、まだまだ、おつきあいも短く、たいした貢献はできておりません。文化・教育交流にしても、むしろ、これからが本番です。したがって、名誉博士など、時期尚早です。
今後の私の行動をご覧になってください。そのうえで、いつか、ご授章を検討くださればと思います。今はまだ、お受けするわけにはいきません」
伸一は、栄誉を欲して、日ソの交流を推進してきたのではない。平和への信念からだ。
通訳のストリジャックは、驚きの表情を浮かべた。彼は、トローピン副総長には話を訳さずに、伸一に尋ねた。
「断ると言われるのですか!」
そして、しばらく絶句した。
この日、モスクワ大学では、ゴーリキー記念図書館での書籍展示会に始まり、伸一に対するモスクワ大学名誉博士の称号授与式、「東西文化交流の新しい道」と題する伸一の講演などが予定されていた。
名誉博士号の授章の話を伸一が聞かされたのは、モスクワに到着してからのことであった。宿舎のホテルに、同大学のV・I・トローピン副総長が訪ねて来たのである。
「二十七日の、わが大学での講演に対し、心から感謝申し上げます。
実は、この講演の前に、山本先生に、名誉博士号をお贈りすることになりましたので、お伝えにあがりました。この授章は、山本先生の文化・教育交流と平和運動を高く評価し、厳正な審査を経て、わが大学の教授会で決定したものです」
同行してきたモスクワ大学のストリジャック主任講師が、それを訳して伸一に伝えた。
栄光あるモスクワ大学の名誉博士号である。彼らは、伸一は喜んで受けるものと思っていた。しかし、返ってきたのは、予想もしなかった意外な言葉であったのである。
伸一は感謝の意を表したあと、こう語った。
「大変にありがたいお話ではありますが、まだまだ、おつきあいも短く、たいした貢献はできておりません。文化・教育交流にしても、むしろ、これからが本番です。したがって、名誉博士など、時期尚早です。
今後の私の行動をご覧になってください。そのうえで、いつか、ご授章を検討くださればと思います。今はまだ、お受けするわけにはいきません」
伸一は、栄誉を欲して、日ソの交流を推進してきたのではない。平和への信念からだ。
通訳のストリジャックは、驚きの表情を浮かべた。彼は、トローピン副総長には話を訳さずに、伸一に尋ねた。
「断ると言われるのですか!」
そして、しばらく絶句した。