小説「新・人間革命」 宝冠32 8月21日

花のあと山本伸一たちの一行は、モスクワ大学本館の九階にある総長室に案内された。ここで、名誉博士号の称号授与式が行われるのである。

 総長室には、既に教授や学生の代表らが待機し、伸一と峯子を拍手で迎えた。二人は、部屋の中央にある円形テーブルに、大学首脳と共に座った。周囲にもテーブルとイスが並び、百人ほどの人が出席していた。

 冒頭、ホフロフ総長が立った。

 「わがモスクワ大学は、山本先生に対して名誉博士の称号を贈ることを決定いたしました。ただ今から、その授章式を行います」

 拍手がわき起こった。伸一は、立ち上がって、皆に向かって礼をした。

 さらに総長は語った。

 「この名誉博士号の授章は、山本伸一氏の、教育活動、平和事業への多大な貢献に対するものであります」

 伸一への名誉博士の称号授章は、モスクワ大学教授会の席上、同大学哲学部から提案があり、歴史学部と同大学付属アジア・アフリカ諸国大学の支持を得て、推挙され、教授会の決定をみたものであった。

 「山本先生は、優れた社会活動家、平和運動家であり、哲学者、そして数多くの著作をもつ作家として、よく知られています。

 会長は、それら著作のなかで、現代の最も大事な問題として、人間関係の新しい価値観を提起しております」

 総長は、伸一の、世界平和と社会への貢献の具体的な実績をあげて賞讃し、それらが伝統あるモスクワ大学名誉博士にふさわしい業績であることを述べ、こう話を結んだ。

 「今回の称号授与が、モスクワ大学創価大学の協力と、ソ日両国民の一層の親善の発展につながると信ずるものであります」

 そして、総長は伸一に、名誉博士の学位記を手渡した。

 伸一にとって、世界の大学・学術機関からの第一号となる名誉学術称号が授けられたのである。意義深き「知性の宝冠」であった。