小説「新・人間革命」  9月6日 宝冠46

山本伸一は話すにつれて、ますます言葉に勢いがみなぎっていった。

 「私ども創価学会平和運動は、まず、生命尊厳の仏法哲理を学び合うことから始まります。それは、本来、万人が等しく、尊極無上の仏の生命をもっているという思想です。

 そして、互いが互いの幸福を願って、励まし合い、信頼、尊敬し合う人間の善の連帯を、家庭、地域、職場など、身の回りから広げていく運動が基調になっています。

 戦争の根本要因は、相手を信じられないという相互不信、人間不信にあります。

 各人がそれを打ち破る人間革命の実践に励み、観念ではなく、現実の社会のなかに、人間共和の縮図をつくり上げ、それを、イデオロギー、民族、国境を超えて、世界に広げようというのが、私たちの運動です」

 ―チリの女性詩人ミストラルは叫んだ。

 「私達が今いるその場所で〝平和〟を唱えよう。どこへ行こうと唱えよう。その輪がふくらむまで」(注)

 午前十一時過ぎ、伸一の一行は、「赤の広場」にあるレーニン廟に献花した。日ソの友好を誓い、平和を願っての献花であった。

 昼食を挟んで、午後三時、伸一は高等中等専門教育省を訪問し、Ⅴ・P・エリューチン大臣と、第一次訪ソに続いて二度目の会談を行った。

 そして、午後五時、彼はクレムリンで、八カ月ぶりにコスイギン首相と再会したのだ。

 「この語らいを待っていました!」

 こう言って首相は握手を求めながら、人なつこい微笑を浮かべた。

 伸一が、多忙ななか、時間を割いてくれた礼を述べると、首相は、いたずらっぽい表情を浮かべて答えた。

 「時間をつくり出しました!」

 そして、「ぜひとも必要な時間であったからです」と真顔で続けた。

 「では、記念撮影をしましょう」

 首相は、伸一の一行十数人を自ら案内し、共に記念のカメラに納まった。



 引用文献:  注 吉田実意子訳「呪われた言葉」(芳田悠三著『ガブリエラ・ミストラル』所収)JICC出版局