小説「新・人間革命」宝冠47  9月8日

 記念撮影のあと、山本伸一と同行の青年のうち一人が残り、コスイギン首相の執務室で会見が始まった。

 ソ連側には、対文連のポポワ議長、ソ日協会のコワレンコ副会長、モスクワ大学のホフロフ総長らが同席した。通訳はモスクワ大学のストリジャック主任講師である。

 ブレジネフ書記長が静養中であることを聞いていた伸一は、まず、書記長への見舞いの言葉を述べた。

 「ありがとうございます」

 首相は笑顔で答えた。

 昨年秋に引き続いて、二度目の会談とあって、打ち解けた語らいとなった。

 伸一は、「私は政治家ではありません。日本の一壮年として、率直にお話しさせていただきます」と前置きし、コスイギン首相の米ソの緊張緩和に対する努力を讃えた。次いで、平和建設のための未来展望について、さまざまな観点から意見交換した。

 そのなかで伸一は、昨年九月の訪ソ後、二度にわたって中国を訪れ、周恩来総理、トウ<登におおざと>小平副総理と会談したことを伝えた。また、アメリカではキッシンジャー国務長官と会談したことも語った。

 そして、仏法者として世界の平和を願い、人間対話に励む真情を述べた。

 コスイギン首相は、日中平和友好条約がどうなるのか、特に反覇権条項がどうなるのかに強い関心をもっていた。中国が、この年一月に開催した第四期全国人民代表大会で、明確に反ソ路線を打ち出したことから、中国への警戒感を強くしていたのである。

 中国は、いまだ文化大革命が続いており、四人組が実権を握っていた。まさに激動の渦中にあったのである。

 しかし、伸一は、やがて中国は、大きく変化し、対ソ政策も変更する時が、早晩、やって来るにちがいないと確信していた。

 彼は時代の底流を見ていた。周恩来総理、トウ<登におおざと>小平副総理という中国の指導者の“人間”を見すえていたのである。