小説「新・人間革命」宝冠49  9月10日

クレムリンを後にした山本伸一たちは、モスクワ市内のレストランに急いだ。

 午後六時半から、伸一と峯子が主催する食事会が予定されていたのだ。文化省、高等中等専門教育省、ソ連対文連、ソ日協会、モスクワ大学、モスクワ市など、お世話になった各界の来賓を招いての集いである。

 伸一は、今回の訪ソを振り返り、出席者の多大な尽力と歓迎を丁重に謝した。

 集った人びとは、今回の訪ソで教育・文化交流が一段と伸展したことを喜ぶとともに、伸一のモスクワ大学名誉博士号の受章を祝福してくれた。

 にぎやかに歓談の輪が広がるなか、伸一は峯子と、出席者一人ひとりに、深謝の思いを語り、御礼の言葉をかけて回った。

 感謝の心は、その人の生き方、哲学の表れといってよい。自己中心の生き方を排し、何事も皆の支えがあってこそ成り立つという考えをもつならば、おのずから、人びとへの感謝がわくものだ。しかし、自分中心で、“周囲の人が何かしてくれて当然”という考え方でいれば、感謝の思いをいだくことはない。胸には、不平と不満が渦巻いていく。

 友情とは、感謝の心をもち、その気持ちを相手に伝え、報いようとしていくなかで深まっていくものだ。

 ソ連滞在の最終日となった二十九日午前、伸一たちは、教育省を訪問。M・A・プロコフィエフ教育相らと意見交換した。

 同教育相は、前年五月の訪日の折、創価大学を訪問していた。

 彼もまた、伸一の名誉博士号受章を、わがことのように喜んでくれた。

 「私は、モスクワ大学で博士号を取り、現在も母校で、講義しております。私たちは、二人ともモスクワ大学の博士なのです。この絆は強いと思います」

 伸一は、自分の名誉博士号の受章を、心から喜んでくれる、ソ連の友人ができたことが、このうえなく嬉しかった。