小説「新・人間革命」  1月13日 新世紀44

松下幸之助と販売会社の社長らとの懇談会は三日目に入った。さまざまな苦情や意見をじっと聞いていた松下は、最後に言った。

 「結局は松下電器が悪かった。この一語に尽きると思います。みなさん方に対する私どものお世話の仕方が不十分でした」

 そして、かつて、電球をつくって売り歩いていた時代に、各店がそれを売って、松下電器を育ててくれたことに触れた。

 「今日、松下電器があるのは、本当にみなさんがたのおかげです。……恩顧を忘れてしまって、ものを見、判断し、考えるから、そこに、一つの誤りなり弱さが現れてくると思うのです。

これからは、心を入れ替えて出直したいと思います」

 非は販売会社・代理店にも多々あった。しかし、松下は、最終的には彼らを責めるのではなく、すべてを自分の問題、自分の責任としてとらえたのだ。また、

受けた恩義に応え切れなかったことを参加者に詫びたのである。

 松下の目は潤んでいた。参加者も、ハンカチで目頭を拭っていた。

 彼の誠実さに、誰もが胸を揺さぶられ、共感し、考えを改め、決意を新たにしたのだ。

 「われわれも悪かった。これからはお互いに心を入れ替えて、しっかりやろう」と言ってくれる人が続出したという。

 事態が窮地に陥ると、その責任をなすりつけ合うのが、人の世の常といってよい。しかし、そうなれば、自分を省みる眼を塞いでしまい、真の敗因を探り出すことはできない。ゆえに、そこには本当の再生はない。

 だが、“責任は自分にある”とする松下の生き方が、自分を見つめる皆の眼を開かせたのだ。

 松下は決意を直ちに行動に移した。自ら営業本部長代行となり、第一線に躍り出て、販売改革に当たった。

売店の集まりで四時間も立ち詰めで、業界繁栄への道を訴えたこともある。そして、苦境を乗り越えていった。

 「勇将の下に弱卒無し」と。リーダーの勇猛果敢な行動ほど、皆を鼓舞する力はない。