小説「新・人間革命」 1月14日 新世紀45

「真々庵」での、松下幸之助山本伸一の語らいは弾んだ。

 この日、松下は伸一に、仏法で説く人間観などについて、次々と質問した。

 伸一は、仏法の精髄の教えである法華経では、万人が等しく尊極無上の「仏」の生命を具え、また、本来、誰もが人びとを救済する使命をもって、この世に出現したと説いていることなどを語った。

 松下は、何度も、何度も頷きながら、熱心に耳を傾けていた。

 話が一段落した時、松下は「今日は、ぜひ先生にご相談したいことがあります」と言って語り始めた。

 「私は、このままでは、日本はますます混迷の度を深めていくことになると思っております。

それは、日本の政治に『国家経営の哲理』がないからです。企業の命運は、経営者の経営理念で決まっていきますが、国家も原理は同じではないでしょうか。

 ところが、今の政治家の大多数は、国家百年の大計もなく、その時々の利害で動いているような現状です。これでは、国家の経営がうまくいくわけがありません。企業なら、とうにつぶれています。

 今こそ、国家の経営哲学をもった、いい政治家をつくらなければいけません。それにはいい人を育てることです。そこで、そのための塾を、つくろうと計画しています。先生のご意見を、お聞かせください」

 いわゆる「松下政経塾」の構想であった。

 伸一には、国を思う松下の切なる気持ちがよくわかった。また、極めて大事なことであると思った。しかし、賛同することには、ためらいがあった。

 それは、松下の健康を考えたからだ。

 「人材の育成」は命を削る仕事である。創価学園創価大学を創立した伸一には、それがいやというほどわかっていた。

病弱な体を押して、一代で“世界の松下”を築いた苦労を思うと、休養しながら、もっと長生きしてほしかった。だから、答えに窮したのだ。