小説「新・人間革命」  4月24日 波濤10

 商船高校では、本科(三年)を経て、専攻科(二年)に進む。機関科の場合、専攻科の一年目は練習船、造船所での実習を受ける。二年目には商船での実習などを受け、卒業していく。

 機関科の専攻科一年の久保田実と寺崎秀幸、吉野広樹の三人は、東京の同じ造船所で実習を受けていた。寺崎と吉野は、久保田の紹介で三カ月半前に入会したばかりであった。

 春からは、それぞれ別の商船で実習を受けるため、その前に、そろって学会本部を訪ねようということになったのである。

 三人は、山本会長と会えるとは、思いもしなかった。驚きと喜びが、彼らを包んだ。

 伸一は、車の中から、一人ひとりと固い握手を交わし、これから彼らを待っている、長い航海の日々に思いを馳せながら語った。

「どんな状況に置かれても、自分は学会員であるとの誇りをもって、しっかり頑張るんだよ。そして、誰からも信頼され、尊敬される立派な人になりなさい。君たちがどこへ行っても、私は、じっと見守っているからね」

 彼らは、胸が熱くなるのを覚えた。

 「頑張ります!」

 伸一は、この束の間の出会いを忘れなかった。三人の青年も、その言葉を胸に刻んだ。

 そして、就職すると、船員として、職場の第一人者をめざし、奮闘してきたのである。

 人生の師との誓い――それは、生涯を支える精神の骨格となる。

 その精鋭たちが、「波濤会」結成の推進力となってきたのである。

 「波濤会」の結成大会が行われたのは、一九七一年(昭和四十六年)八月十日、総本山での男子部夏季講習会のことであった。

午前十時、五重塔前に、白いトレパンに白いシャツを着て、船員帽を被った、海の男たち三十七人が整列した。木と木の間に、「波濤会結成大会」と書かれた幕が掲げられていた。

 赤銅色の地肌を見せた富士が、彼らを見守るように、悠然とそびえていた。