小説「新・人間革命」  4月28日 波濤13

 山本伸一が、「波濤会」誕生後、メンバーの代表と初めて会ったのは、結成大会の翌年(一九七二年)四月、神戸市立中央体育館で行われた、兵庫県の同志との記念撮影会であった。

 この席上、兵庫県の三校の大学会が結成され、メンバーが神戸商船大学寮歌“白波寄する”を合唱した。

 そこに、「波濤会」の代表七人も、参加したのである。

 彼らは、金ボタンの付いたダブルのスーツの制服に身を包み、大学会のメンバーと共に、感激に胸を躍らせながら、熱唱した。

 伸一は、「波濤会」メンバーの、厳しい船上での生活を思い、彼らの歌に耳を傾け、じっと視線を注ぎながら、心で語りかけた。

 “みんな、半年、一年と、船の中で孤軍奮闘する日々が待っているだろう。しかし、決して負けないでほしい。君たちには、私がいるんだ! いつも、じっと見守っているぞ。

 凛々しく、胸を張って、威風も堂々と歌った、この光景を絶対に忘れないでほしい”

 合唱が終わり、伸一がマイクを取った。

 「今日は『波濤会』も来ているんだね。『波濤会』のメンバー、ご苦労様!」

 「はい!」と言って、七人が立ち上がった。どの顔も紅潮していた。

 「ありがとう! 勇壮な心意気を感じさせる合唱でした。非常に感銘を受けました。

 その制服もいいね。また、お会いしよう」

 短いやり取りであったが、伸一は、彼らと師弟の原点をつくろうと、真剣であった。

 原点があれば、心は揺れない。何があっても、そこに帰れば、新しい力がわく。原点をもつならば、行き詰まりはない。

 結成一周年を迎えた七二年(昭和四十七年)の夏季講習会にも、「波濤会」は、喜々として集ってきた。そして、新たに第二期生として二十一人が任命されたのである。

 その後も、一騎当千の信心強盛な船員を選抜し、「波濤会」メンバーの任命式が行われていくことになるのである。