小説「新・人間革命」  3月17日 学光42

第一回「全国通教生大会」の終了後、通教生と、松風合宿所前の階段で、記念のカメラに納まった山本伸一は、皆に訴えた。
 「仕事、勉強と、皆さんは、日々、大変かもしれない。しかし、置かれた状況が厳しければ厳しいほど、人間修行の環境が整っているということなんです。
 英知を磨くだけでなく、苦労を重ねてこそ、本当の人間的な成長がある。たとえ、英知を磨いたとしても、苦労しなければ、惰弱な人間になってしまう。
だから、苦労が大事なんです。どうか皆さんは、勇んで今の苦労を担っていってください」
 教育の重要なテーマは、人間の心を磨くことにある。労苦は、精神の研磨剤なのだ。
 一九七九年(昭和五十四年)の春、通信教育部は開設四年目に入り、来春には、いよいよ卒業生を送り出すことになる。通教の学生数も増え、夏期スクーリングには千四百余人が参加した。
 この年、創大祭期間中の十一月三日に、第二回「全国通教生大会」が白ゆり合宿所で行われた。全国から約千人が集った通教生大会に招かれた伸一は、勇んで出席し、スピーチした。
 初めに彼は、使命感に燃え、努力に努力を重ねていった人こそが天才であり、天才とは「努力の人」であることを訴えた。
 次いで、吉田松陰松下村塾で弟子の育成に当たった、わずか二年ほどの間に、久坂玄瑞高杉晋作など、多くの逸材が育った理由に言及していった。
 ――教育や訓練が実るかどうかは、必ずしも、年数では決まらない。触発によって使命感を与えた時、人間は大きな力を発揮していく。松下村塾の例は、その一つの証明であるというのが、伸一の主張であった。
 通教生の場合、教師から直接、講義を受けるスクーリングの時間は、長くはない。しかし、そこで、使命を自覚するならば、一人ひとりの無限の可能性が開かれていくことを、彼は訴えたかったのである。