小説「新・人間革命」  3月19日 学光44

  一九八〇年(昭和五十五年)二月十日、全国二十五会場で、各科目の試験が行われた。卒業をかけて挑戦する第一期生も多かった。
 三月九日には、創価大学で卒業面接試験が実施された。そして、経済学部九十九人、法学部百三十人、合計二百二十九人の卒業が決まったのである。
 外には、春の雪が降り続いていた。
 三月二十二日、創価大学のキャンパスは、一面の銀世界であった。
 この日、大学の中央体育館で、第六回卒業式が行われたのである。通信教育部にとっては、初めて卒業生を送り出す、記念すべき式典となった。
 二階席には、通教生を支えた家族たちの姿もあった。深夜に勉強する息子のために、夜食を作り続けた母親もいた。商店主の夫が夏期スクーリングに参加するため、その間、一人で店を切り盛りしてきた妻もいた。
 何事かを成し遂げるために、最大の力となるのは、家族の理解と協力である。一人の人の奮闘の陰には、必ず、それを支える人たちがいる。人間として大事なことは、その人たちへの感謝を絶対に忘れないことだ。
 卒業式であいさつに立った、山本伸一の声も弾んでいた。二百人を超す通教生が卒業の栄冠を手にしたことが、嬉しくて、嬉しくて仕方なかったのである。
 この日、彼は「たゆまぬ努力と実践で、社会で信用を勝ち取ってもらいたい」「生涯、学問をするという姿勢を貫いてもらいたい」との二点を要望し、はなむけの言葉とした。
 式典終了後、通信教育棟で学部ごとに、一人ひとりに卒業証書が授与された。
 名前が読み上げられると、「はい!」という元気な声が響き、前に進み出る。皆、やや緊張しているものの、誇らかな顔であった。
 卒業証書と、伸一が卒業生のために揮毫した「学光」という書が手渡されていった。
 その光景を、教室の後方から、家族たちが喜びの涙を浮かべながら、見守っていた。