小説「新・人間革命」 3月22日 学光46
心に勇気の光源を持つ人は、苦しみの暗夜に打ち勝つことができる。闇が深ければ深いほど、仰ぎ見る太陽はまばゆい。「暁は夜から生れる」(注)とは、インドネシアの女性解放の先駆者カルティニの叫びである。
今井翔子は、吐き気などの苦痛にさいなまれるなかで、通教を続けることは、自分には無理なのではないかと考えることもあった。
“お忙しい先生が、わざわざ私たちの教室に足を運ばれ、額に汗をにじませ、生命を振り絞るようにして激励してくださった!”
耳が不自由な彼女は、伸一の話の内容はわからなかった。しかし、懸命に語りかける彼の表情から、深い真心と限りない期待を感じた。魂が震える思いがした。
その時、今井は感極まって、泣きだしてしまった。涙でかすむ伸一の顔は、自分をじっと見ているように感じられた。
しかも、このころ、伸一の母親は病の床に伏しており、容体が危ぶまれるなかで、駆けつけてくれたことを、彼女は、後になって知った。
“この励ましに、なんとしてもお応えしたい。そのために、私は必ず四年間で卒業し、先生に勝利のご報告をしよう!”
今井は、深く心に誓った。そして、苦しい時、辛い時には、伸一の、あの時の姿を思い起こして、頑張り抜いたのである。
スクーリングでも、教師が書く黒板の文字を見て、必死に理解しようと努めた。学友たちも応援し、筆記したノートを見せてくれた。
そして、遂に卒業を勝ち取ったのである。
伸一は、今井の奮闘の報告を聞き、卒業記念にと、自著の詩集を贈った。
その中に、こんな一節があった。
「他人を教育することは易しい 自己自身を教育することは難しい 生涯 確たる軌道に乗りながら 自己を教育していくところに 人間革命の道がある」
引用文献: 注 カルティニー著『暗黒を越えて』牛江清名訳、日新書院