小説「新・人間革命」 3月24日 学光48
「学は光」の合唱を聴いた山本伸一は、真っ先に拍手を送りながら、隣にいた教員に語った。
「通教生の負けじ魂が、あふれていますね。この“負けるものか!”という一念が、人間を鍛え、強くするんです」
第五回学光祭には、春に卒業した通教の第一期生たちも駆けつけていた。
伸一は、その母校愛が嬉しかった。ここから、さらに通教生の良き伝統がつくられていくにちがいないと思った。
そのあと、実行委員長と学長のあいさつに続いて、伸一がマイクを取った。
彼は、各地からスクーリングに参加した通教生の向学心を讃え、真心こもる演技への感謝を述べたあと、力強く訴えた。
「通教生の皆さんは、何があっても“負けない”という精神の核だけは、このキャンパスで深く刻んでいっていただきたい。私の願いは、自分自身に勝っていく人生を歩んでいただきたいということです」
―「自分が自分に打ち勝つことが、すべての勝利の根本ともいうべき最善のことであり、自分が自分に負けるのは、最も恥ずかしく、また同時に最も悪いことだ」(注)とは、古代ギリシャの哲学者プラトンの箴言である。
自己に勝つことから、すべての勝利が始まる。ゆえに、自分に勝つ心を培うことに、創価の人間教育の眼目がある。
伸一は、言葉をついだ。
「皆さんは、他人との比較においてではなく、自分自身に根を張った人間の王道を、自分で見いだして、自分でつくり、自分で仕上げていっていただきたい。
名誉や、有名であるといったことなどに、とらわれるのではなく、生涯、勉学を深めながら、自分らしい、無名の王者の道を生きてください」
通教生たちは、誓いの大拍手で応えた。
名誉や名声を追い求め、自分を見失ってしまう人がいる。大事なことは、自分を見つめ、自分を磨くことだ。そこに、真の充実と勝利と幸福がある。