小説「新・人間革命」 5月 7日 勇気30
支援する会員の世帯数から見ても、東京地方区での当選は、ほぼ間違いないが、大阪地方区での当選は不可能であるというのが、大方の予測であった。
しかし、結果は、人びとの予想を覆して、なんと東京が落選し、大阪が当選を果たしたのである。大阪の勝利は、朝日新聞が「"まさか"が実現」との見出しを掲げるほどの、壮挙であったのである。
伸一をはじめ、大阪の同志の、"断じて立正安国を実現していこう"という、信心から発する情熱がもたらした勝利であった。
「人間社会の完成をめざす重要な歩みの中で、強い宗教的信仰に根柢をもたなかったものを、私は一つだって知らない」(注)とは、十九世紀のイタリアの革命家マッツィーニの言葉である。
しかし、戸田は、あえて、その選挙戦の指揮を、伸一に執らせた。"伸一なら、勝利できるかもしれない"との、一条の希望を託しての、戸田の布陣であったのであろう。
しかし、その一方で、不可能の壁をことごとく打ち破り、いつも勝利を収めてきた常勝将軍の伸一を妬み、わざと無謀ともいえる戦いの指揮を執らせ、その責任を負わせようという、古参の幹部らの思惑もあった。
ともあれ、獅子が、わが子を谷底に突き落とすといわれるように、戸田は、伸一を、勝算のない、熾烈な戦線に投げ入れたのだ。
"地に打ちのめされても、そこから立ち上がれ! そして、必ずや、民衆勝利の旗を打ち立てるのだ!"
それが、戸田の思いであった。