小説「新・人間革命」 5月 11日 勇気33

参議院大阪地方区の補欠選挙で、東京から乗り込んできた会員が引き起こした選挙違反事件は、支援の最高責任者である山本伸一とは、なんの関係もなかった。
検察当局も、捜査が進むにつれて、その事実を認めざるを得なかったようだ。
 伸一の起訴にあたっては、この事件は、公訴事実からは外されていた。
 しかし、検察は、公職選挙法がよくわからぬ関西の会員が、熱心さのあまり、戸別訪問をし、逮捕されていたことに着目した。そして、それを、伸一の指示によるものとして、彼を起訴したのである。
 それは、新しい社会変革の力となった創価学会に、なんとしても一撃を与え、その前進を阻もうとする"権力の意図"を、浮き彫りにするものであったといってよい。
 伸一が、この「大阪事件」の法廷闘争に勝利し、無罪の判決が出たのは、釈放から四年半後の、一九六二年(昭和三十七年)一月二十五日である。
 もともと無実の罪である。無罪は当然といえば、当然のことといってよい。
 検察の控訴が懸念されたが、有罪に持ち込むことは、不可能であると判断したのであろう。控訴はなく、一審で伸一の無罪が確定したのである。
 長い戦いであった。当初、伸一が、第三代会長の就任を辞退した理由の一つも、もしも、有罪になれば、学会に多大な迷惑をかけてしまうことを憂慮したことにあった。
 ともあれ、立正安国の道は、権力の魔性との壮絶な闘争であり、疾風怒濤の道である。
 迫害に次ぐ迫害の、日蓮大聖人の御生涯を見よ! 立正安国を実現せんとする創価学会にも、これから先、暴虐な弾圧や巧妙な迫害が、待ち受けているにちがいない。
 日蓮大聖人は「大難来りなば強盛の信心弥弥悦びをなすべし」(御書一四四八ページ)と仰せである。その大難と戦い、勝ち越えていくなかに、自身の一生成仏があり、人間革命があるのだ。