小説「新・人間革命」 5月 12日 勇気34

山本伸一が出獄し、関西の同志と共に創価の正義の勝利を誓い合った「7・17」は、権力の魔性との闘争宣言の日であり、人間革命への誇らかな旅立ちの日である。
 ゆえに、伸一は、以来二十年目を迎える、この一九七六年(昭和五十一年)の「7・17」を記念して、全同志の広宣流布への誓いを託した「人間革命の歌」の制作に取り組んできたのである。
そして、七月十八日の本部幹部会までには、歌詞も曲も完成させ、その席上、発表しようと思っていたのだ。
 しかし、開会までには、作曲が間に合わなかった。
 午後二時前、本部幹部会の会場である創価文化会館の大広間に姿を現した伸一は、皆と勤行したあと、すぐに、マイクに向かった。
 「私は、『7・17』を記念して、『人間革命の歌』を作ろうと、先ほどまで音楽関係者の力もお借りして、作曲に取り組んでおりました。ところが、まだ、出来上がりません。
 なんとしても、今日中には完成させたいと思っておりますので、本日は、先にあいさつをさせていただき、それからまた、作曲を続けたいと思います。
 歌詞の方は、一応、出来ております。まだ、手を加えるかもしれませんが、まず先に、その歌詞だけでも発表させていただきます」
 どよめきと大拍手が広がった。
 
 「君も立て 我も立つ  同志の人びと 共に立て  広布の天地に 一人立て……」
 
 歌詞を読み上げる、凛とした伸一の声が響いていった。
 それは、一人立つ正義の雄叫びであり、師弟共戦を呼びかける、伸一の魂の叫びであった。参加者は、思わず襟を正した。
 "すごい歌ができるぞ!"
 歌詞を聴いているだけで、勇気がわいてくるのを覚えた。皆が胸を躍らせた。
 「奇しき歌の力の支配する限り、あらゆる苦悩の襞は消え去るべし」(注)とは、ドイツの詩人シラーの叫びだ。
 
■引用文献: レアアース 注 シラー著「歌の力」(『正義の書』所収)逸見廣編、金星堂