小説「新・人間革命」 母の詩 10 10月13日
東京文化祭は演目を重ね、男子部による組み体操「青年の譜」が始まった。
学会歌の躍動の調べに合わせ、山本伸一の詩「青年の譜」を朗読する声が響く。
ダイナミックに展開される演技に、観客は息をのみ、一心に舞台を見ていた。
オレンジ色のユニホームに身を包んだ青年たちによって、組み体操の圧巻ともいうべき、五段円塔への挑戦が始まった。
土台となる一段目の円陣を組んだ二十人が、呼吸を合わせ、渾身の力で立ち上がる。その上には、体をかがめた二段目の十人、三段目の五人、四段目の三人、五段目の一人が乗っている。
「同志の歌」の調べが流れるなか、二段目が立ち、やがて、三段目も立ち上がった。円塔は小刻みに震えている。
四段目が立ち、五段目の一人が立ち上がりかけた。その時、円塔は、グラリと大きく揺れた。そして――崩れ落ちた。
「ああっ!」
会場から喚声が起こった。
“しまった! 失敗だ!”
円塔の中で演技の合図を出していた、五段円塔の演技指導責任者で、江戸川区の副本部長の石上雅雄は、頭の中が真っ白になった。
――東京文化祭で男子部が組み体操を行うことになったのは、八月三十日であった。
「学会魂をいかんなく表現するには、やはり組み体操しかない」ということになり、五段円塔にも挑戦することになったのである。
学会の文化祭で、五段円塔は、何度かつくられていたが、準備に約一カ月は必要とされてきた。しかし、今回は、わずか五日しかない。まさに、不可能への挑戦であった。
だが、青年たちは燃えた。断じて、成し遂げようと決めた。困難の壁が厚ければ厚いほど、闘魂を燃え上がらせるのが青年である。