小説「新・人間革命」 母の詩 15 10月19日
五段円塔が初めて立った九月四日は、総合リハーサルが行われ、この日は、合計七回、組み上げることができた。
皆、自信満々で、翌五日の東京文化祭の本番を迎えたのであった。
「諸君は、諸君の油断大敵という気持を決してゆるめてはならない」(注)とは、イギリスの名宰相チャーチルの至言である。
そして――山本伸一が出席した文化祭の舞台で、五段円塔は完成直前に崩れたのだ。一瞬、メンバーの誰もが、起こった現実が受け止められず、呆然としていた。場内を埋めた観客は、固唾をのんで舞台を注視した。
数秒の沈黙が続いた。次の瞬間、炎のような闘魂が、彼らの胸に噴き上げた。
“このまま、終わらせてなるものか!”
皆が、そう思った。
「やろう!」
「もう一度やろう!」
誰からともなく、声があがった。
客席から、声援が起こった。
「頑張れ!」
五段円塔の演技指導責任者の石上雅雄を中心軸に、下段の二十人が、スクラムを組み、再挑戦の態勢がつくられていった。バックミュージックのテープが、巻き戻される。
トランペットの音色が高らかに響き、「人間革命の歌」の曲が流れた。
舞台の袖で、フィナーレの出番を待っている、他の演目の出演者たちも、小声で題目を唱え始めた。
「よーし、一段目、立ち上がれ!」
石上が叫んだ。下段が立った。だが、皆の肩と腕は、ピクピクと震えていた。連続しての挑戦で、筋肉が疲労しているのだ。
「人間革命の歌」の調べに合わせ、詩「青年の譜」を朗読する声が響く。
「青年よ! 生きぬくのだ 断じて 生きぬくのだ 絢爛とした 総体革命の主体者として 決然 歴史に勝利するのだ…」