小説「新・人間革命」 母の詩 17 10月21日

 森川武志は、仕事が終わると、男子部の先輩と共に、学会活動に励んだ。
 同志は、皆、温かかった。「どんなに辛くとも、頑張り抜くんだ。苦労を乗り越えて、人間は強くなるんだよ」と、力強く激励してくれた。
また、座談会に出ると、「夜中におなかが空くでしょう」と言って、そっと握り飯を持たせてくれる婦人部員もいた。
 砂漠のように乾き切った現代社会を潤す、真心と励ましの泉が、創価学会といってよい。
 森川は、創価家族の温もりを感じた。それが、彼の孤独感を癒やし、心の支えとなった。
 彼は、何事にも自信がなかった。母親がいない、中学しか行けなかった、家が貧しかったことなどが、劣等感を募らせ、どうせ、俺なんかだめなんだという思いが、いつも心のどこかにあった。
 就職して四年たった時のことだ。帰省した森川は、自分と同じように大工をめざしていた、中学時代の同級生と会った。
既に家を建てられるようになったと、喜々として語るのを聞いて、彼は、大きく水をあけられた気がした。自分を卑下し、落ち込んだ。
 東京に戻って、男子部の先輩に、その思いを語ると、先輩は言った。
 「どうして君は、人と比べて、自分はだめだとか、不幸だとか、考えるんだ! 結局、それは、見栄があるからだよ。君は、なんのために信心しているんだ。
 大聖人は『都て一代八万の聖教・三世十方の諸仏菩薩も我が心の外に有りとは・ゆめゆめ思ふべからず』(御書三八三ページ)と述べられている。
釈尊が説いた八万法蔵といわれる膨大な仏法の教えも、一切の仏や菩薩も、自分の心の中にあると説かれているんだよ。
 つまり、森川君という人間は、君自身が想像もできないほど、尊く、崇高な、無限の力を備えた存在なんだよ。
しかも、君は、君にしかできない使命をもって、この世に出現してきた地涌の菩薩だ。誰も、君の代わりはできない。この世の中に、たった一人しかいない、かけがえのない存在なんだ!」