小説「新・人間革命」 母の詩 20 10月25日

東京文化祭は、フィナーレを迎えた。
 舞台正面には、「人間革命光あれ」の文字が、鮮やかに浮かび上がり、頬を紅潮させた出演者が、舞台を埋めた。
 高らかに手拍子が鳴り響き、「人間革命の歌」の大合唱が始まった。山本伸一も席から立って、マイクを手に、共に歌った。
  
  君も立て 我も立つ  広布の天地に 一人立て……
  
 勝利と感動と歓喜の大合唱となった。
 皆が、人間革命をめざしての文化祭であった。自己自身への挑戦の文化祭であった。
 そして、それぞれが、自分に勝った!との実感と、その感動をかみしめながらのフィナーレとなった。
 最後に、伸一が、御礼のあいさつをした。
 彼は、短い練習期間にもかかわらず、美事な、大成功の文化祭となったことに対し、関係者の努力に、心から深謝した。
 そして、現代社会の進むべき道について、語っていったのである。
 「今日、人類は、あらゆる面で、行き詰まりの様相を呈しております。あらゆる指導者は、この状況をどう打開するか、真剣に悩み、また、その方途を模索しております。
 『行き詰まったら原点に戻れ』との言葉がありますが、私は、西洋文明の源流ともいうべき、古代ギリシャの在り方に立ち返ってみる必要があると思います。
 古代ギリシャでは、神は、人間と同じ姿をもち、喜怒哀楽をともにするという考えのもと、人間中心、人間礼讃の文化が花開きました。また、オリンピック競技も行われ、その期間中は、戦争も休んだといわれる。
 こうした文化を支えたものは、民衆の心からの熱望であったといえましょう。
 今日の人間疎外をはじめ、現代の行き詰まりは、人類が政治優先、経済優先に陥り、人間を見失ってしまった帰結であると、私は、申し上げたいのであります」