小説「新・人間革命」 母の詩 33 11月9日

七月十四日、山本伸一に代わって、妻の峯子が、長男の正弘、次男の久弘、三男の弘高と共に、母の幸を見舞った。正弘は二十三歳、久弘は二十一歳、弘高は十八歳になっていた。
 「おばあちゃん、早く元気になってよ」
 三人が、次々にこう言って、手を握り締めると、幸は、「うん、うん」と言いながら、頷いた。
 「孫は子よりもかわいい」とも言われる。幸にとって、孫たちの見舞いは、最高の宝物であったにちがいない。
なかでも、正弘は、アメリカ建国二百年祭を記念して行われた全米総会などに出席していたため、幸は、その帰国を待ちわびていたのだ。
 幸は、嬉しそうに、孫たちを見て、「大丈夫だよ。よく来てくれたね」と言って、笑みを浮かべた。以来、彼女は、次第に、目に見えて元気になっていった。
 七月度の本部幹部会が行われた十八日夜、山本伸一は、「人間革命の歌」を完成させる。
この時、彼は、曲について意見を聞かせてもらった、民音民主音楽協会の略称)に勤務する植村真澄美と松山真喜子という、二人の女子部員に、詩「母」に曲をつけてほしいと頼んだ。
 詩「母」は、伸一が、五年前の一九七一年(昭和四十六年)の十月に作った詩である。母親の幸をはじめ、学会の全婦人部員を思い描きながら、作詩を進めたのだ。
 
  母よ! おお 母よ あなたは あなたは なんと不思議な力を なんと豊富な力を もっているのか
  
 この一節から始まる、約二百行の長編詩で、伸一は、母こそ万人の「心の故郷」であることを謳った。
 海よりも広く、深い、母の愛は、正しき人生の軌道へと、人を導く力でもある。