小説「新・人間革命」 母の詩 36 11月12日

植村真澄美と松山真喜子は、「もう少し、歌いやすい曲に」という山本伸一の思いに応えようと、苦心を重ね、曲を作り直した。
 彼女たちは、ようやく出来上がった「母」の歌をテープに吹き込み、八月四日の夕刻に本部に届けた。その夜、伸一は、妻の峯子とテープを聴いた。万人が母を思い、求めるような、自然で歌いやすい曲になっていた。
 「すばらしい歌ができましたね」
 峯子が、最初に微笑みを浮かべた。
 「いい歌だ。きっと母も喜ぶだろうし、全国、全世界の母たちが喜んでくれるだろう」
 そして、側にいた幹部に言った。
 「作曲をしてくれた二人に、『本当にありがとう。名曲です。明日の婦人部の集いで発表させてもらいます』と伝えてください」
 翌五日、伸一が出席して、創価大学で行われた婦人部の集いで、初めて、この歌が流されたのである。「母」の歌は、一番から三番の歌詞にまとめられていた。
  
 一、母よ あなたは
   なんと不思議な 豊富な力を
   もっているのか
   もしも この世に
   あなたがいなければ
   還るべき大地を失い
   かれらは永遠に 放浪う
 
 二、母よ わが母
   風雪に耐え 悲しみの合掌を
   繰り返した 母よ
   あなたの願いが翼となって
   天空に舞いくる日まで
   達者にと 祈る
 
 二番の歌を聴くと、伸一は、風雪の幾山河を勝ち越えてきた母・幸の、尊き栄光の人生が、思い返されてならなかった。
 母が幸せになってこそ、本当の繁栄といえる。母の笑顔が、まばゆく光ってこそ、社会の平和といえるのだ。