小説「新・人間革命」 厳護 33 1月18日

 「輸送班」の任務を遂行するには、事前の万全な体調管理も不可欠である。
 また、着任に際しては、頭髪もきちんと整え、シャツなども清潔感があふれる白にするように定められていた。輸送班もまた、学会のとなるだけに、身だしなみも、きちんとすることが大事であるからだ。
 列車の乗り換え時間や到着時刻、注意事項などを、登山会参加者に徹底することも、彼らの大切な任務であった。
それには、担当した車両の隅々にまで、声が届かなければならない。そのために、発声練習に励むメンバーもいたのである。
 連絡や報告の、迅速さ、正確さも、厳しく求められた。正確で、要を得た報告の仕方を、皆、必死になって習得した。
もしも、登山会参加者の数が一人でも違っていれば、輸送上も問題が生じるし、宿泊の寝具や食事の数にも影響が出てきてしまうからである。
 正確であることは、一切の基本である。不正確な情報こそ、諸問題の元凶となる。
 イタリアの思想家マッツィーニは言った。
 「全体の勝利は種々の行動が遂行されるその正確さによる」(注)
 さらに、総本山の建物の名前と位置をはじめ、地図は、すべて頭に入っていなければならない。参道に階段があれば、何段なのかも覚えておく必要があった。
 もし、災害などで、暗闇の中を避難誘導する時にも、階段は何段かを告げれば、事故を未然に防げるからだ。
 宿泊する各坊などの建物の構造と畳の数、収容人員、消火器や掃除用具のある場所、非常用の出入り口や通路、下足箱には靴が何足入るかなども、頭に叩き込んだ。
 本当に、登山会参加者の安全の責任をもとうと思えば、あらゆる事態を想定し、万全の手を打たなければならない。
 青年たちは、それに見事に対応していった。夏季講習会などには、海外からの登山会参加者も増加の一途をたどっていたことから、自主的に語学を勉強するメンバーもいた。
 
■引用文献:  注 マッツィーニ著『人間義務論』大類伸訳、岩波書店=現代表記に改めた。