小説「新・人間革命」 人間教育37 3月30日

イネさんから、「教育の心」を学んだ木藤優は、日々、クラスの児童のことを思い浮かべては、唱題に励んだ。
そして、次第に子どもたちと心が通い合うようになり、学校を抜け出す子どももいなくなった。クラスは目に見えて変わっていったのである。
 山本伸一は、創価大学の「万葉の家」で、木藤に言った。
 「教育部の活動については、すべて報告を受けています。若いメンバーが、育っていますね。今年の教育部は、よく頑張った!」
 「ありがとうございます。
 先生。八月の下旬に、教育部の代表が、ソ連教育省の招きで訪ソいたします。山本先生が切り開いてくださった教育交流の道を、さらに堅固なものにしてまいります」
 「頼みます。私は、日本のため、世界のために、これからも、懸命に、全世界に教育交流の道を開いていきます。次代を担う子どもたちが、世界は一つだという考えをもてるようにしなければならない。
 教育部の皆さんは、私が開いた道を、世界平和の大動脈にしていってほしい。せっかく全力で道を切り開いても、後に続く人がいなければ、道は、雑草や土に埋もれていってしまう。
一つ一つの事柄を、未来へ、未来へとつなげ、さらに、発展させていくことが大事なんです。
 今回、ソ連を訪問するメンバーが、体調を崩したりすることなく、元気に、有意義な交流を図れるよう、祈っています。妻と共に、真剣に題目を送り続けます」
 伸一自身が、体調の優れないなかで、訪ソ団の健康を気遣う言葉に、木藤は目頭が熱くなった。真心とは、気遣いの言葉のなかに表れるものだ。
 懇談は、ほどなく終わった。
 木藤は、この日、なんとしても伸一に、明十二日の教育部夏季講習会への出席を、お願いしようと思っていた。しかし、疲労の極みにある伸一を見ると、口には出せなかった。