小説「新・人間革命」 人間教育43 4月6日

青年教育者たちは、自分たちの人間教育運動を知ってもらおうと、第十回教育部総会には、多くの教育関係者を招待した。
 青年たちは、運動を推進していくなかで、子どもたちが生き生きとし、目覚ましい成長を遂げていくのを実感してきた。彼らには、自分たちの運動に、教育の未来を開く確かなる道があるとの、強い確信と誇りがあった。
 その思いの発露が、教育関係者への呼びかけとなっていったのだ。
 また、総会を記念して、青年教育者の人間教育実践の体験談集が、『体あたり先生奮戦記』として発刊されたのである。
 青年たちは、この本を、真っ先に、山本伸一に届けた。伸一は、本を宝前に供え、題目を唱えたあと、ページを開いた。そして、一気に、最後まで目を通したのである。
 そこには、都心の小学校で六年生二十人の担任となり、児童のすさんだ心を一新し、スポーツで、中学入試で、見事な成果を収めた、あの萩野悦正の体験も載っていた。
 また、タバコ、シンナー、万引、恐喝、家出など、非行を重ねる八人の男子生徒に真正面から関わり、皆を更生させ、感動のなかに卒業の日を迎えた、広島県の高校教師の体験もあった。
 家にこもりきりであった五年生の女子児童の自宅に、毎日のように足を運び、心の絆を結び、登校するようになるまでを記した、埼玉県の女性教師の体験も掲載されていた。
 伸一は、妻の峯子に語った。
 「いい本ができたよ。先生方の苦闘と必死さが伝わってくる。みんな、何度も子どもに裏切られた思いをいだき、自信を失い、大きな壁にぶつかっている。
それでも、どの子も使命があるはずだ!と、自分を鼓舞して、体当たりで突き進んでいった。
 結局は、忍耐であり、執念であり、気迫であり、勇気だ。それは、教育に限らず、すべての分野で勝利する秘訣だ。こうした真剣な教師が、続々と誕生していることが、私は本当に嬉しいんだよ」