小説「新・人間革命」 人間教育44 4月7日
山本伸一が「教育革命」を誓い合う日にと提案した教育部夏季講習会から一年後の、一九七六年(昭和五十一年)八月十二日には、東京・立川市市民会館で、「青年教育者実践報告大会」が開催された。
人間教育運動を実践してきた青年たちの体験を、活字ではなく、肉声で伝えようと企画されたものであった。
この日、五人の代表が登壇。体当たりの懸命な教育実践には、いずれも感動のドラマがあった。なかでも、大きな共感を呼んだのが、岡山県の女子高校の教員である、北川敬美の報告であった。
――北川が担任を務める三年生のクラスに、和子という生徒がいた。下宿暮らしで、生活は乱れ、ほかの生徒と喧嘩を繰り返した。
廊下ですれ違っただけで、「その目つきはなんだ!」と言ってからんだりもする。校則は無視し、パーマをかけ、マニキュアをし、超ロングのスカートで、ぺしゃんこにした鞄を抱えて登校した。
他の生徒の話では、酒を飲み、タバコはもとより、シンナーなども吸っているという。
彼女は、手に障がいがあった。生まれつき人さし指と中指が短かった。そのために、何度となく、いやな思いをさせられ、心はすさんでいったのであろう。
和子のこととなると、どの教師も、お手上げという状態であった。北川の胸は痛んだ。
”校則違反を重ね続ける和子は、このままでは、学校にいられなくなる!
不自由な手という宿命に翻弄されて生きてきた、十七年間の人生は、辛さ、苦しさの連続であったにちがいない。
でも、それに負け、いつまでも自暴自棄になっていれば、ますます自分を不幸にしてしまう。その辛苦を補って余りある、幸福な人生を生きてほしい。なんとかしなければ……”
北川の挑戦が始まった。
和子の幸せを祈って、懸命に唱題した。
祈りに裏打ちされた、積極果敢な行動が、事態を開いていくのだ。