小説「新・人間革命」 人間教育45 4月8日
川敬美は、“自分は、和子の校則違反を見て見ぬふりをすることはやめよう”と心に決めた。また、心のどこかで、“非行少女”のレッテルを貼るようなことも、絶対にすまいと決意した。
そして、自分がいつも見守っていること、成長してほしいと心から願っていることを知ってもらうために、毎日、厳しく注意した。
「ブラウスのボタンを留めなさい」
「違反の赤い運動靴を履いていたでしょ」
愛情の発露として受け止めてもらえるか。感情的反発を招き、逆効果になるのではないか――賭けであった。
最初、和子は、注意を無視した。「先生の顔なんか見たくない!」と言って、教室を飛び出していったこともあった。しかし、毎日、声をかけ続けた。
徐々に変化の兆しが見え始めた。注意すれば、真っすぐに顔を見るようになった。希望の曙光を見た思いがした。
だが、ある教科の授業中、体の障がいについて触れた教師の言葉が、いたく和子を傷つけてしまった。教師が謝っても、彼女の心は癒えなかった。
翌日から、遅刻が続いた。兆し始めたかに見えた信頼の芽も、摘み取られてしまった。 北川は、“もうだめだ!”と思った。
“でも、私が見捨ててしまったら、和子はどうなるの!”と、挫けそうになる自分を叱咤し、辛抱強く関わっていった。
一途に、懸命にぶつかり抜いていくなら、通じぬ真心はない。心を通わせるということは、自身の“あきらめ”との闘いなのだ。
一月半ば、和子の代理と名乗る人物から、“腹痛で学校を休む”という電話が入った。不審に思い、下宿に電話をしてみると、“学校へ行ったはずだ”と言う。
心配で、心配で、仕方がなかった。
翌日、和子は何食わぬ顔で登校してきた。
話をしたいと言うと、彼女は拒絶した。
「意味ないよ。先生は指がそろっている。私の気持ちなんか、わかりゃあせん」