小説「新・人間革命」 人間教育47 4月11日

〝さあ、これからだ!〟
 翌日、北川敬美は、自分に言い聞かせ、学校に行くと、和子が職員室に来た。
 「先生、昨日は、すみませんでした」
 照れくさそうに言い、そっと、手紙を置いていった。北川は、すぐに目を通した。
 「私は、先生の期待をいっぱい裏切ってきました。先生に反抗したことも、数え切れないほどです。それでも先生は、今日の今日まで、私を信じ、本当に心配してくださいました。
先生が、人の何倍も幸せになってほしいと言われた時、とっても嬉しかったのです。
 こんな私ですが、そばにいて、私を叱ってください。私は、初めて思いました。私のことを本当に心配してくれる人が、親のほかにいることを。私は嬉しいんです。先生に出会えて本当によかったと思います」
 以来、和子は変わっていった。明るい笑顔を、よく目にするようになった。クラスメートとの間にあった、厚い壁も取れていった。 遂に迎えた卒業式の日。北川は和子に、「幸せになるのよ」と言って送り出した。
 明くる日、和子は、また、長文の手紙を届けに来た。そこには、彼女の尽きぬ感謝の思いと、決意が綴られていた。
 北川と和子との交流は、卒業後も続くことになる。和子は、その後、看護師をめざし、病院で働きながら高等看護学校に通い、見事に夢を実現していく。手の障がいに負けることなく、明るく、生き抜いていく。
 使命のない子など、誰もいない。皆が尊き使命の人なのだ――その不動なる確信に立つことこそ、人間教育の根幹といってよい。
 ――北川をはじめ、青年教育者たちの教育実践は、やがて、『体あたり先生奮戦記・第2集』に収録され、出版される。それを目にした山本伸一は、若手教師の奮闘に、創価教育の脈動を見る思いがした。
 彼は、深い、祈りを捧げた。
 〝青年教育者に栄光あれ! そして、和子さんをはじめ、若き教師らの教え子たちよ。強くあれ、幸福であれ、人生の勝利者たれ!〟