小説「新・人間革命」 人間教育49 4月13日

 山本伸一は、フォン・ブラウン博士について語っていった。
 ――フォン・ブラウンは、一九一二年(明治四十五年)に、ドイツ東部のビルジッツ(現在のポーランド内)に生まれ、少年時代に宇宙旅行への夢をいだく。
 「博士の偉大さは、宇宙旅行を可能にするためのロケットを開発しようと心に決め、生涯、それを貫いていったことにあります。
 十二歳の時には、車に花火を取り付けたロケットの実験を行って大騒ぎになり、父親から激しく叱られる。しかし、彼は、あきらめずに、ロケットの実験を重ね、そのたびに、大目玉をくらいます。
 数学や物理学は落第点であったが、それがわからないとロケットの設計ができないことを知ると、猛勉強を開始します。やがて、大学を卒業し、ロケット開発の仕事に携わるようになります。
 宇宙旅行という、博士の大きな夢を実現させる力となったのは、何があっても、絶対にやめないという、この貫徹精神にあります。決してあきらめずに、命の限り突き進む執念――それこそが、成功の母であり、勝利の原動力となっていきます」
 時代は、ナチスによる暗黒の嵐が吹き荒れていた。博士も、その烈風に翻弄されることになる。
 ロケットの開発研究を行うには、ドイツ軍の仕事に従事するしかなくなっていった。
 そのなかでも、彼は、宇宙旅行のためのロケット開発の夢を捨てなかった。
 自分の目的は、ロケット兵器の開発ではない。宇宙旅行を実現することだ
 博士は、胸の思いを口にした。そのため、ナチスの秘密国家警察に逮捕されたのだ。
 彼は、上司の尽力で釈放される。その約半年後、彼が中心となって開発したミサイルは、秘密兵器V2号となって、戦争で使用され、ロンドン郊外の町を破壊した。高性能の新兵器となってしまった。悔やまれて、悔やまれてならなかった。
 
■参考文献  
     中尾明著『フォン・ブラウン潮出版社
    木村繁著『フォン・ブラウン』国土社
    的川泰宣著『月をめざした二人の科学者』中央公論新社
     エリック・ベルガウスト著『ヴェルナー・フォン・ブラウン』国立科学研究所(英語)