小説「新・人間革命」 人間教育50 4月14日

新兵器はできても、ドイツの敗戦は、既に避けがたい状況にあった。
 フォン・ブラウン博士らは、生命の危険を感じていた。新兵器製作の秘密を知り、その技術をもっている自分たちを、ドイツ軍や秘密国家警察が殺すことも懸念されたからだ。
 博士は、ドイツが連合国軍に敗れて、捕虜になるなら、自由の国・アメリカの捕虜になろうと決めた。
 彼らは、米軍に投降し、アメリカに渡った。博士は、この新天地で、ロケット開発に取り組み、次々と成功を収める。
 しかし、夢である宇宙旅行が完全に成功するまで、決して満足することはなかった。
 アポロ11号が月面着陸に成功し、地球に向かって帰り始めた時、記者会見に応じたフォン・ブラウン博士は語った。
 「きょうという日は、長年にわたるきつい仕事と希望と夢とが一つに結び合わされた日です。が、宇宙飛行士たちは、まだ地球にもどっていません。
そのことをわたしは忘れることはできません。まだ、お祝いをするのは早すぎると思います」(注)
 山本伸一は、ロケット開発にかける博士の生き方を通して、こう訴えた。
 「私たちの信心の目的は、個人にとっては一生成仏です。そのために、絶対に排していかなければならないのは油断です。常にまだまだ、
これからだ!と、自身に言い聞かせて、昨日よりも今日、今日よりも明日というように、自分を磨き、深め、仏道修行に励み通していくことが大事です。
 人生の最終章において、自分は、真剣に戦い抜いた。何も悔いはない。学会員であってよかった。人生の喜びを心からかみしめていると、思えるかどうかです。
 フォン・ブラウン博士は、宇宙への冒険に生きてきましたが、私たちの信仰は、内なる世界である生命の扉を開く、挑戦と探究の旅であり、冒険であります。
恐れを知らぬ、あくなき冒険心を燃やし、勇猛果敢に、この道を突き進んでいこうではありませんか!」
 
■引用文献
 注 木村繁著『フォン・ブラウン』国土社
 
■参考文献
 木村繁著『フォン・ブラウン』国土社
 的川泰宣著『月をめざした二人の科学者』中央公論新社
 エリック・ベルガウスト著『ヴェルナー・フォン・ブラウン』国立科学研究所(英語)