小説「新・人間革命」 灯台 2 4月21日

山本伸一は、聖教の記者たちに訴えた。
 「戸田先生は、広宣流布の大誓願に生涯を捧げられた指導者でした。
 先生は、こうおっしゃっていた。
 『私は、創価学会を、愛おしい全同志を、全会員を、断じて守らねばならない。いや、学会員だけではない。全人類を幸福にしていかねばならん。
そのために、命をなげうとうと思うと、力が出る。元気になる。怖いものなど、何もなくなるんだよ』
 広宣流布の師匠には、すべての民衆を救っていこうという地涌の菩薩の大生命が、脈動している。その〝師のために〟と、心を定めて戦う時、生命が共鳴し合い、自身の境涯も開かれていくんです。
 私は、そうすることによって、戸田先生の生命、ご境涯に、連なることができた。
わが命は燃え上がり、無限の勇気が湧き、智慧が湧きました。誰もが不可能と思い、たじろぐような困難の壁にも、勇猛果敢にぶつかり、乗り越えていくことができた。
また、忍耐強く戦うこともできたんです。師弟の不二の道こそ、自身を開花させる大道なんです。
 人間は、ただ自分のためだけに頑張っているうちは、本当の力は出せないものだ。
女性の場合でも、母親となって、わが子を必死になって守り抜こうとする時には、想像もできないぐらいの力を発揮するじゃないですか」
 伸一は、編集室を回り始めた。何気なく、傍らの記者の机を見ると、評論家の小林秀雄の本があった。
 「君は、この本を読んでいるのかい。私は小林さんとお会いしたことがあるんだよ」
 「はい、存じております。学会創立四十六周年の記念行事で、先生は、小林秀雄さんの著作を通して、大野道犬の話をしてくださいました。それで読んでみようと思いました」
 大野道犬は、豊臣秀頼に仕えた武将・大野治胤のことである。
 「そうか。嬉しいね。青年は、貪欲なまでに学び、その知識を生かし、実践し、民衆のなかに入り抜いて、戦うんだよ」