小説「新・人間革命」 灯台 10 4月30日

 幹部の話は、確信にあふれ、〝なるほど〟と頷けるものがあり、歓喜と感動を呼び起こすものでなければならない。
 「てきぱきした対話のない単調な長話は、鈍感を示す」(注)とは、イギリスの哲学者ベーコンの警句である。
 会合で、何を、どう話すか――山本伸一も、青年時代から、真剣に悩み、考えてきた。
 新鮮で説得力のある話をしようと、懸命に読書を重ね、新しい知識や先人の格言などを通して、信心の在り方を訴える努力もした。
 また、自らの実感に裏打ちされた言葉で語るために、いかなる活動も、率先垂範で戦ってきた。創価の父・牧口常三郎は、「体験のない指導というものは観念論になってしまう」と、よく語っていたという。
 実践あるところにはドラマがある。ドラマがあるところに感動が生まれる。当然、失敗もあろう。それでも、めげずに挑み抜いた体験にこそ、共感が広がるのだ。
苦闘を勝ち越えた体験談は、〝自分には、とてもできない。もう無理だ!〟と弱気になっている同志の、心の壁を打ち破る勇気の起爆剤となる。
 また、伸一が信条としてきたのは、戸田城聖の指導を語ることであった。
 師の指導を伝え、それを皆が生命に刻み、共有していくなかで、広宣流布の呼吸を合わせていくことができるからだ。
 さらに、彼は、〝戸田先生は、いかなる思いで、広宣流布の戦いに身を投じられ、どれほど、一人ひとりの同志に慈愛を注いでおられるか〟という、師の心を訴えてきた。
 広宣流布の師の指導と心を知り、行動する時、勇気が、歓喜が、生命力が、沸々とたぎり立つ――それは、伸一自身が、常に体験し、強く実感してきたことであった。
 ともあれ彼は、〝戸田先生に代わって、全参加者を励まし、希望と勇気と確信を与えよう。奮い立たせずにはおくものか!〟との決意で、真剣勝負で臨んできたのである。
 一回一回の会合に、全精魂を注ぎ尽くす伸一の姿勢は、青年時代から一貫していた。
 
■引用文献 注 『ベーコン随想集』渡辺義雄訳、岩波書店