小説「新・人間革命」 薫風 16 2012年 2月16日

学生部の先輩のなかには、生活が大変な福富淳之介や三賀正夫を心配し、餃子などを持って、下宿を訪ねてくれた人もいた。
「大聖人は、池上兄弟の奮闘を見て、『未来までの・ものがたり(物語)』(御書一〇八六p)と賞讃されているんだよ。
君たちも、その戦いが、将来、みんなに語り伝えられ、広宣流布の歴史に残るような、偉大な、悔いのない生き方をしてもらいたい。
歯一本は、いちばん大きい歯だって、直径一センチぐらいなものだ。
もし、その歯を治療して、金を儲けることしか考えないとしたら、直径一センチの、小さく狭い境涯でしかないと言えるんじゃないかな。
しかし、『妙法の歯科医師』となって、広宣流布という人類の幸福と平和をめざして生きるなら、自分の境涯は、世界を包むことになる。
だから、生涯、信心を貫き、広宣流布の使命に生き抜くんだよ。
さあ、餃子も、どんどん食べてくれ。仕送りがないからといって、くよくよするんじゃないよ。食べて元気を出せよ」
先輩は、皆に餃子を勧めたが、自分は、ほとんど、手をつけなかった。三人が餃子をたいらげた時、「ぐぐぐーっ」と、腹の鳴る音がした。その先輩の腹だった。
彼は、二部(夜間部)に学ぶ学生であり、生活は、決して楽ではなかったのだ。
福富たちは、先輩の真心が、五臓六腑に染み渡る思いがした。
地区の婦人部の、こまやかな心遣いにも、勇気づけられた。地区の拠点に行くと、ふんだんにオニギリや茶菓子などを用意して、励ましの言葉をかけてくれるのだ。
「親御さんの理解も得られないのに、頑張っているなんて、本当に偉いわ。
将来、立派な歯医者さんになるあなたたちが、一生懸命に信心していること自体が、私たちの誇りなんだからね。何があっても頑張り通すのよ」
剛速球のような信心の指導と、創価家族の真心の励ましと人間性の温もりが、彼らの使命感を孵化させ、育んでいったのである。