小説「新・人間革命」 薫風 17 2012年 2月17日

九州歯科大学の福富淳之介、三賀正夫、大内堀義人の三人は、一生懸命に学会活動に取り組んだ。
弘教に励むと、生命の躍動感がみなぎり、広宣流布に生きる喜びを実感することができた。
彼らは、経済的な逼迫も、苦には感じなかった。よく一緒に即席麺をすすりながら、こう言って笑い合った。
「社会は大学紛争で、スチューデントパワーの時代といわれている。でも、ぼくらは、スチューデントプア(貧乏学生)だな」
さらに、教学を学ぶなかで、仏法の生命の法理に感嘆した。
また、座談会などに出席するたびに、病苦や生活苦に行き詰まり、死をも考えるような絶望の淵から蘇生した、壮年や婦人の体験を聞いた。
それらを通して、信心への確信を、より深めていったのである。
同志との友情と連帯の絆、歓喜の実感、教学の深化、体験の共有──そこに、信心の成長を促し、人材を育てていく要件がある。
福富たち三人が山本伸一と会い、初めて言葉を交わしたのは、第一回「九州青年部総会」
北九州市新日鉄大谷体育館)が行われた、一九七三年(昭和四十八年)三月二十一日のことであった。
総会終了後、北九州会館で、伸一を囲み、大学会メンバーや女子部の代表らとの懇談会がもたれたのである。
彼らも、九州歯科大学会のメンバーとして、ここに参加したのだ。三人とも、既に歯科大学での六年間の学生生活を終えていた。
福富と三賀は、勤務医などをしながら、歯科医院の開業をめざしていた。しかし、大内堀は、開業すべきかどうか、進路に悩んでいたのである。
懇談会の折、大内堀は、意を決して伸一に尋ねた。彼は、普段から、一見、取っつきにくい印象を与えた。
その彼が、緊張して語り始めた。目はぎらりと光り、表情はこわばっていた。
「先生! 質問があります」
「なんだい。怖い顔をして……」