小説「新・人間革命」 薫風 18 2012年 2月18日

大内堀義人は、山本伸一に語った。
「私は、現在、母校の九州歯科大学で助手をしております。大学卒業後、炭鉱の病院に勤めておりましたが、炭鉱の閉山にともない、病院も閉院したため、大学に戻りました。
今後の進路として、このまま母校で研究・教育の道を歩むか、開業して地域に貢献すべきか迷っております」
伸一は、微笑を浮かべ、ユーモアを交えて答えた。
「そんなに怖い顔をしていたら、開業しても、患者さんは来ないよ。
それは冗談だが、君は、一途で、探究心が強そうだから、大学に残って研究を重ねる方が、いいかもしれないね。
君は、研究者、教育者に向いているように、私には思える。
民衆のために頑張ろうという、優秀な歯科医を、たくさん育ててほしいんだよ」
大内堀は、自分の性格を見抜いたうえでの、伸一のアドバイスであると感じた。彼の心は決まった。
「ほかにも、九州歯科大学のメンバーがいたね。あとの人たちは、どうするの?」
すると、福富と三賀が立って、開業医をめざしていることを語った。
「そうか。大内堀君の大学での研究が、患者さんに役立つように、しっかり連携し合っていくんだよ。
大学での研究が、ただ、研究のためだけに終わってしまっては、なんにもならない。
また、開業医も、日々、進歩している研究の成果を、どう取り入れていくか、真剣に勉強していく必要がある。
最新の研究が医療の現場で、患者さんの役に立っていくことが大切なんです。
歯科医に限らず、医療者にとって大事なことは、患者さんの立場に立って、ものを見ていくことです。
私は、名医の第一の条件は、患者さんの気持ちがわかることだと思っています。つまり、同苦の心をもつことです」
伸一の指導は、三人の歯科医師にとって、人生の指針となったのである。