小説「新・人間革命」 薫風 20 2012年 2月21日

九州歯科大学の学生であった三人の青年たちは、入会後、両親に、幸せになってほしいとの思いを強くしていった。
彼らは、両親の入会を真剣に祈るとともに、気遣いを大切にしてきた。帰省する時には、感謝の思いを込めて、アルバイトでためたお金で土産を買った。
近況を知らせる手紙も、よく書くようにした。そこには、常に、御礼の言葉を記した。
福富淳之介の場合、父親は、当初、学会を中傷する噂話を鵜呑みにし、学会は反社会的な宗教であると、頑なに思い込んでいた。
そこで、真実の創価学会の指導と姿を知ってもらおうと、山本伸一と海外の識者などとの対談等を報じた機関紙誌を、実家に送るようにしてきた。
また、歯科医師である父に、仏法の生命哲理を知ってもらいたいと、「一念三千」などの法理を学んだ感動を、手紙に認めもした。
福富は、仏法への確信が深まるにつれて、両親に仏法を教え、入会させたくてたまらなくなった。折々に、学会の話をしていった。
そのなかで、まず、母親が入会した。
一九七五年(昭和五十年)の秋、父親が腰を痛めて寝込んだ。
歯科医師になっていた福富は、飛んで帰って、父に代わって治療に当たりながら、一日も早い回復を祈って懸命に唱題した。
ほどなく父親は健康を回復した。そして、その直後に入会したのである。
「真実というものは、真実の行いによってのみ、人々に伝えることができる」(注)とは、トルストイ箴言である。
山本伸一は、青年歯科医たちの、一段と成長した姿に目を細めた。
「嬉しい。本当に嬉しい。歯科医として、しっかり技術を磨くことは当然だが、最も大事なことは、自分の人格を磨き、人間として信頼されていくことです。
そして、地域に貢献していってください。
さらに、人びとを幸福にするための正道である学会活動の、闘士であり続けてください。そこにしか、本当の人生の幸福も、勝利もないからです」
 
■引用文献
 注 「わが信ずるところとは」(『レフ・トルストイ全集第23巻』所収)フドージェストヴェンナヤ・リチェラトゥーラ出版社(ロシア語)