小説「新・人間革命」 薫風 23 2012年 2月24日

山本伸一は、さらに、「人のをやは悪人なれども子・善人なれば・をやの罪ゆるす事あり、又子悪人なれども親善人なれば子の罪ゆるさるる事あり……」(御書九三一p)の御文を引き、追善回向について語っていった。
「親子、家族の絆は強い。成仏のためには、生前の故人の信心が最大の要件であることは当然ですが、残された子どもなど、家族が真剣に題目を送ることによって、故人を成仏に導くことができます。
他界したあとは、回向される側の成仏・不成仏は、回向する側の信心のいかんにかかってきます。
したがって、ご遺族など、回向する方々が、強盛に信心に励んでいくことが、大事になるんです」
次いで伸一は、仏法で説く、「逆即是順」(逆即ち是れ順なり)の法理に言及していった。
「逆」とは逆縁、すなわち、仏の教えを聞いて正法を誹謗することであり、「順」とは順縁を意味し、仏の教えを聞いて素直に信心することをいう。
「逆即是順」とは、一切衆生は仏性を具えているがゆえに、たとえ正法を誹謗した人であったとしても、正法に縁したことが因となって、必ず成仏できることを説いたものである。
「ゆえに、南無妙法蓮華経という大法をもって回向するならば、物故者の生命が悪業をはらんでいたとしても、悪は即善と顕れ、成仏させることができるのであります。
しかも、この題目の回向によって、自分自身にも福運と威光勢力が具わっていきます。そこに、私どもの追善の深い意義があります」
追善法要に続いて、伸一は、小倉南区で行われた、九州各部代表との懇談会に出席した。
この懇談会が終了したのは、午後八時過ぎであった。
彼は、腕時計を見ると、勢いよく立ち上がった。
「まだ、間に合うな。田部会館に行こう」
田部会館は、小倉南区の区長である田部忠司が提供している個人会館である。