小説「新・人間革命」 薫風 24 2012年 2月25日

田部忠司は、北九州文化会館の「会館守る会」の責任者であった。このグループは、会館の美化や清掃等に携わる有志の集いである。
前日の二十三日の夜、その任務のため会館に来ていた田部は、山本伸一と言葉を交わす機会があった。
その時、田部は、小倉南区で、個人会館を提供してきたことを報告したのである。
伸一は言った。
「明日の夜、私は小倉南区に行くことになっている。もし、時間が取れれば、御礼に伺いたいな」
「はい。ありがとうございます!」 
田部は、多忙を極める伸一に、そう言ってもらえただけで満足であった。
二十四日、田部は、夕刻から自宅二階の田部会館に待機し、唱題していた。地元の会員たちも、三々五々、会場に集って来た。
前年、伸一が九州指導の折、福岡県の博多区糟屋郡、鹿児島県の鹿屋市にある個人会館を訪問したことから、皆、田部会館にも来てくれるものと確信していたのだ。
午後八時半ごろ、田部は、全体的には解散とし、一部の幹部に残ってもらい、打ち合わせを行うことにした。
そこに、「山本会長が、そちらに向かいます」との電話が入った。田部は、帰りかけたメンバーに戻ってもらい、家族で玄関前に迎えに出た。
伸一は、田部会館に向かう車中、妻の峯子に語った。
「遅くなってしまったが、おじゃまして大丈夫かね。私は、ともかく会場提供者に心から御礼申し上げ、大切にしたいんだ。
個人会館は、いわば広宣流布という戦いの出城だ。
人びとは、そこで仏法の話を聞いて信心し、奮起し、人間革命、宿命転換の挑戦を開始していく。つまり、『弘教の城』であり、『発心の城』であり、『幸福の城』だ。
また、そこに集う同志の、常識豊かで楽しそうな姿を見て、周囲の人たちが、学会への理解を深めていく『外交の城』でもある」