小説「新・人間革命」 薫風 27 2012年 2月29日

山本伸一は、田部会館に入ると、待機していた同志に語りかけた。
「こんなにたくさんの人が集まってくれていたんだね。勤行をしても声が漏れないようなら、一緒に勤行をしましょう。大丈夫?」
「大丈夫です!」と、田部忠司が答えた。
「では、小さな声で勤行しよう。さまざまなお宅が、会場を提供してくださっていますが、大切なのは近隣への配慮です。
声が漏れてうるさいような場合には、皆で勤行をすることや、学会歌の合唱は控えるべきです。
隣近所のことも考えない非常識な信心は、長続きしないし、地域広布もできません。
信心は、どこまでも、淡々と、水の流れるように実践し続けていくことが大事なんです」
勤行のあと、伸一は、各部に、簡潔に励ましの言葉を贈った。
男子部には「勇んで苦労を!」、女子部には「教学で立とう!」、壮年部には「一家を守ってください!」、婦人部には「一家和楽の太陽に!」と──。
彼は、さらに、魂を込めて訴えた。
「今日、お会いできなかった方によろしくお伝えください。本当は、全員とお会いしたいが、会長は私一人だから、それはできません。
海外の人たちも待っているんだもの。
だから、日々、皆さんに、懸命にお題目を送っています。皆さんも題目を送ってください。そうすれば、生命が通じ合えるんです。いつも、私たちは一緒ですよ」
「では、最後に」と、ピアノも弾いた。
『広布のため、仏子のための、わが生涯である』というのが、伸一の覚悟であった。
帰途、彼は、小倉の同志に歌を詠んだ。
  
  まごころの  菖蒲に月も 語りかけ 小倉の友と 会えし嬉しさ
  
この歌を聞いた同志の胸に、希望の薫風が吹き抜けた。歓喜の花が大きく開いた。