小説「新・人間革命」 薫風 29 2012年 3月2日

佐賀文化会館の和室で行われた懇談会で、山本伸一が最初に声をかけたのは、県の学生部幹部であった。
伸一は、佐賀県学生部が、学生部の機関紙「大学新報」を糧に、生き生きと仏法対話に励んでいる様子を聞くと、笑顔で語った。
「すごいね。学生部が頑張っているところには、未来がある。
学生時代に信心に励んでいるということは、人生城を築くための、立派な礎をつくっているということなんだ。
本当の勝負となる建設期は、卒業してからだ。生涯、学会の本流として、組織の第一線に立って、広宣流布に生き抜いていくんだよ。
仕事が多忙で、音をあげそうになったり、意見の合わない幹部がいて、嫌気が差したりすることもあるでしょう。
しかし、決して負けずに、人生の名城を築き上げるんだよ」
伸一は、県女子部長にも声をかけた。
「上石美津子さんだね。お仕事は?」
「はい。父の経営する建築設備の会社を手伝っております。
父は、これまでに二度、倒産しましたが、一家で信心根本に頑張り、現在は、仕事も軌道に乗ってきております」
「そうか。あなたも大変だったんだね。しかし、苦労した分だけ、人の苦しみがわかる人になれるよ。
家業の倒産は残念だったけれども、世の中には、倒産は数多くあります。
大事なのは、人間が倒産しないことだ。自分に負けないことだ」
伸一が言うと、「はい!」という男性の声が響いた。上石の父親の輝夫であった。
「お父さんですね。いい娘さんじゃないですか。お父さんも頑張ってくださいよ。
倒産の危機は乗り越えても、人間革命し、自分の生命を浄化しなければ、本当の宿命転換はできません。
だから、広宣流布のために戦って、戦って、戦い抜いていくんです。生命を磨き抜いてください」
宿命の転換という大功徳を受けるためには、真剣勝負の精進を重ね抜いていく以外にないのである。