小説「新・人間革命」 薫風45 2012年 3月21日

山本伸一は、さらに力を込めて、目の不自由な婦人に訴えていった。
「あなたは、自分も幸せになり、人びとも幸せにしていく使命をもって生まれた地涌の菩薩なんです。仏なんです。
一切の苦悩は、それを乗り越えて、仏法の真実を証明していくために、あえて背負ってきたものなんです。
仏が、地涌の菩薩が、不幸のまま、人生が終わるわけがないではありませんか!
何があっても、負けてはいけません。勝つんですよ。勝って、幸せになるんですよ」
誰もが、伸一のほとばしる慈愛を感じた。
婦人の目には、涙があふれ、悲愴だった顔が明るく輝いていた。
酒田英吉は、指導、激励の『魂』を見た思いがした。『指導というのは、慈悲なんだ。
同苦する心なんだ。確信なんだ。その生命が相手の心を揺り動かし、勇気を呼び覚ましていくんだ!』
座談会が終わり、皆が帰り始めると、伸一の方から、酒田英吉に声をかけた。
酒田は、東京で帰りの交通費をもらった御礼を言いたくて、仕事で来ていた玖珂町から、バイクで駆けつけてきたことを語った。
伸一は、笑みを浮かべて、彼を見た。
「元気で頑張っているんだね。今日は、遅いから、ここに泊まって、明日の朝、帰るようにしてはどうかね。
ところで、お腹は空いていないかい。ぼくは、夕食が、まだなんだ。
一緒に、月見うどんを食べようよ」
酒田は、嬉しそうに、「はい」と答えた。
伸一は、「でも、今日は、割り勘だよ」と言うと、自ら、うどんを手配した。
伸一は、佐賀県のことを深く知ろうと、県民性について尋ねた。酒田は、答えた。
佐賀県人の気質を示す、『ふうけもん』という言葉があります。頑固すぎて融通がきかないという意味です。
でも、働き者で几帳面であると言われています」
「そうか。すばらしいじゃないか。
それは強い信念と真面目な行動ということだ。広宣流布のためには、最も大事な資質だよ」