小説「新・人間革命」 薫風46 2012年 3月22日

山本伸一は、遠路、自分を訪ねて来た酒田英吉に、『信心に励むうえで、最も大切なものは何か』を語っておこうと思った。
「酒田君。信心の極意は、『師弟不二』にあるんだよ。
戸田先生は、不世出の、希有の大指導者だ。先生の一念は、広宣流布に貫かれている。
その先生を人生の師と定め、先生の仰せ通りに、先生と共に、また、先生に代わって広宣流布の戦いを起こしていくんだ。
その時に、自分の大いなる力を発揮することができるし、自身の人間革命もある。さらに、幸福境涯を築くことができる。
事実、私はそうしてきた。それで、今日の私がある。『立正安国論』に『蒼蠅驥尾に附して万里を渡り』(御書二六p)という一節があるだろう。
一匹のハエでも、名馬の尾についていれば、万里を走ることができる。
同じように、広宣流布の大師匠につききっていけば、自分では想像もしなかったような、すばらしい境涯になれる。
君も、自ら戸田先生の弟子であると決めて、師弟の道を、まっしぐらに突き進んでいくんだよ」
「はい!」
やがて、月見うどんが届いた。
伸一は、二人分の代金を払うと、「わざわざ来てくれたんだから、ご馳走するよ」と言って笑いを浮かべた。
その夜も、酒田は、床に入っても、なかなか寝付けなかった。
伸一の真心を思うと、ありがたく、嬉しく、感謝と歓喜が、胸中を駆け巡るのだ。彼は、決意した。
『山本室長がおっしゃるように、自分も、生涯、師弟の大道を進もう!』
師匠が大地ならば、弟子は草木といえよう。草木は、大地に深く根を下ろし、一体となってこそ、その養分を吸い上げ、大きく育つことができるのである。
──以来、二十年余が過ぎていた。
しかし、酒田は、今、佐賀文化会館で伸一を目の当たりにすると、すべてが昨日のことのように思い起こされ、月見うどんの味さえ蘇ってくるのだ。