小説「新・人間革命」 薫風47 2012年 3月23日

佐賀文化会館の懇談会で、山本伸一は、皆に言った。
「みんな、本当によく頑張ってくれたね。
さあ、また、新しい旅立ちだ。一緒に、広宣流布の歴史を創っていこうよ。
二十年後に、佐賀県創価学会が大勝利しているならば、今日、ここに集まったことが、二十年後の語りぐさになる。
広宣流布の思い出とは、苦労と前進と勝利の幾山河のなかに、輝いていくものなんだよ」
翌二十六日、伸一は、早朝から、同志の激励のために、色紙などに句や歌を、次々と揮毫していった。
午後一時過ぎ、彼は、佐賀文化会館の開館記念勤行会に出席した。
午前中の雨もあがり、空は希望の光に包まれ、吹き渡る風がさわやかであった。
勤行のあと、県長の中森富夫があいさつに立った。
彼は、十年ぶりに山本会長を佐賀県に迎えることができた喜びを語り始めた。
伸一の前で話すことに、中森は、激しく緊張していた。
そのためか、声は上ずり、話し方もぎごちなかった。彼のその緊張が、参加者にも伝わり、皆の表情も硬かった。
佐賀県の新出発となる勤行会である。
伸一は、明るく、晴れやかなものにするために、皆の余計な緊張を吹き飛ばしたかった。
中森が、「山本先生は、昨日来、私たち佐賀の同志に対して、全力で激励してくださり……」と語った時、伸一は口を挟んだ。
「私のことは、いいんですよ。今日は、もっと楽しくやりましょう。ここは文化会館ですから、文化的に、県長が、さわやかに歌でも歌ったらどうですか。
そうすれば、皆さんも、『あの県長も、変わったな。固いだけだと思っていたけど、人間革命できたんだ。信心はすごいな』って、感心するじゃないですか」
笑いが起こった。
リーダーは、人心の機微を知り、重い空気に包まれているような場合には、それを一新する機転を働かせていくことが大切である。