小説「新・人間革命」 人材城 2  2012年4月11日

熊本県青年部長の勝山平八郎は、山本伸一に指名され、会館の由来を三行ほど読んだ時、言葉がつかえた。
「法旗翩翻と」の「翩翻」の読み方が、頭に浮かんで来ないのだ。思い出すまでに、二、三秒かかった。
さらに、その数行あとの「聳ゆ」でつまずき、最後の段落の「冀くは」で、また、口ごもってしまったのである。
読み終わった勝山の額には、汗が噴き出ていた。
伸一は、勝山に言った。
「県青年部長が、会館の由来も、朗々と読めないのでは、みっともないよ。
県の中心会館となるのが熊本文化会館なんだから、碑文は事前によく読んで、しっかり、頭のなかに刻みつけておくんです。
急に言われて、上がってしまったのかもしれないが、そういう努力、勉強が大事なんです。
戸田先生の、青年に対する訓練は、本当に厳しかった。『勉強しない者は、私の弟子ではない。私と話す資格もない』とさえ言われていた。
お会いした時には、必ず、『今、なんの本を読んでいるんだ』とお聞きになる。
いい加減に、本の名前をあげると、『では、その作品は、どんな内容なんだ。
内容を要約して言いなさい』と言われてしまう。ごまかしなんか、一切、通用しませんでした。
戸田先生が厳愛をもって育んでくださったおかげで、今日の私があるんです。
青年は、未来のために、どんなに忙しくても、日々、猛勉強するんだよ」
青年部のメンバーは、全員が創価学会の後継者であり、次代の社会を担うリーダーたちである。
ましてや、県青年部長といえば、各県の青年の要である。県の各界の要人と会い、対話する機会も少なくない。
それだけに伸一は、教養を深く身につけ、一流の人材に育ってほしかった。だから、あえて、厳しく指導したのだ。
彼が、熊本に足を延ばした最大の目的も、青年と会い、青年を指導、激励することにあったのである。