小説「新・人間革命」 人材城 5 2012年4月14日

山本伸一は、皆に視線を注ぎながら、言葉をついだ。
「しかし、入会した時から、広宣流布のために生きようと決意している人は、ほとんどいないでしょう。
皆さんも、最初は、経済苦や病苦などの悩みを解決したくて、信心をしたはずです。
つまり、多くの人は、自分のことばかり考えて信心を始めたといえます。
でも、先輩から、『広宣流布に生き抜くなかに自他共の幸福があり、しかも、そこにこそ、最高の幸福、最高の歓喜の人生がある』と教えられ、一生懸命に信心に励むなかで、それを実感してきたんでしょう。
同様に、今度は皆さんが、広宣流布の大願に生き抜こうという、決定した信心の人たちを育てていくんです。
それが、先輩幹部の使命であり、人材育成なんです。
そのためには、まず、皆さんが、『広宣流布こそ、わが人生』と定め、その一念を赤々と燃やして、同志を触発していくことです。
ともあれ、信心大学の優等生こそが、最高の人材であることを忘れないでください」
彼は、県の幹部らとの懇談会を終えたあと、館内や会館の庭を回った。
会館の職員をはじめ、会う人ごとに言葉をかけたり、一緒に記念撮影するなど、激励を重ねた。
また、ピロティに置かれた熊本県の立体地図の前で、県長の柳節夫から説明を聞くと、伸一は語った。
「この県中の人びとに、どうやって信心を教え、幸せにしていくのか──幹部は、そのことを常に考え、悩み、祈っていくんです。
柳さんは、五十代になったと思うが、自分の老後の安泰を第一に考えるのではなく、広宣流布を根本に考えていくことが大切です。
それが、県の最高責任者の使命なんです。
県の人びとの幸福の実現のために、県長として本気になって戦うならば、自分を超え、大きく境涯を開いていくことができます」
広宣流布に生きるとは、大きく利他の翼を広げることだ。そして、使命の大空に羽ばたく時、自身の境涯の飛躍があるのだ。