小説「新・人間革命」 人材城 22 2012年5月4日

一九六〇年(昭和三十五年)五月三日、山本伸一が第三代会長に就任した。
『青年会長の誕生だ! 新時代の到来だ!』
学会中に歓喜の波動は広がり、熊本の地にも及んだ。原谷永太も、正太も、決意を新たにして、弘教に走った。三男の正輝も入会した。
三人は、山本伸一の弟子として、社会、地域を担い立つ『信頼の柱』になる自分をつくろうと、懸命に学会活動に励んだ。
すると、最初に入会した父親が、信心に反対し始めた。
「信心で飯は食えんけん! 学会活動なんかすんな! 毎日、夜まで働け!」
父親は、息子たちに、給料は、ほとんど払わず、深夜まで残業させた。
学会を目の敵にするようになった父のもとで、三兄弟は、互いに助け合いながら、代わる代わる学会活動に参加した。
六三年(同三十八年)、原谷永太は、北熊本支部の男子部の責任者になり、二人の弟も、地元組織の男子部の中核に育っていった。
しかし、父が無理解のため、思うように活動できないことが、何よりも辛かった。
出席すべき大事な会合に出られず、悔し涙を流したこともあった。永太は思った。
『親父の工務店がどぎゃんなろうが、もう、俺の知ったことじゃなか。家ば出て、独立しよう』
しかし、学会の先輩に相談すると、その考えの非を正された。
「今、家を飛び出したら、君の負けだと思う。苦労から逃げ出すだけじゃないか。
もし、後輩から、『親が信心に反対なんですが、どうすればいいでしょうか』と相談されたら、君はなんと言うんだ。『逃げ出しなさい』と言うのかい。
物事には、いろいろな選択肢があるだろう。しかし、絶対に忘れてはならないのは、逆境のなかで戦ってこそ、本物の人材に成長できるということだよ。
お父さんには、君自身の行動、生き方を通して、信心の力を示していくんだよ。それが君の使命だよ」