小説「新・人間革命」 人材城 24 2012年5月8日

原谷家の兄弟姉妹は、皆、懸命に信心に励んだ。
やがて、長男の永太をはじめ、次男、三男、長女、次女、三女も、男女青年部の支部の責任者として活躍するようになった。
また、父親の了承を得たうえで、三兄弟は、それぞれ独立し、店をもつようになった。
彼らは希望の光に包まれ、学会活動にも一段と力がこもっていった。
一方、父親は、工務店のほかに、瓦生産の事業にも着手した。
だが、ほどなく事業は失敗してしまった。三兄弟は、その借金の返済にも、協力を惜しまなかった。
『それなのに、親父は……』
父親の失踪に、彼らは、憤りと情けなさを?み締めながら、先輩幹部に指導を受けようと、車で熊本会館に向かったのだ。
熊本会館には、折よく九州方面の壮年幹部が来ていた。原谷三兄弟は、かいつまんで現在の窮状と、そのいきさつを語った。
「大変だな。それで今、君たちは、どういう一念で祈っているんだい」
長男の永太が、率直に語った。
「『もう、親父のことは許さんぞ!』と思いながら、祈っています」
九州の幹部は、厳しい口調で言った。
「君たちは、何を考えているんだ! なんのために信心をしているんだ! 信心の眼を開いて考えてみるんだ!
どんな父親であれ、親父さんがいたからこそ、君たちは、この世に生を受け、大きくなり、御本尊に巡り合うことができたんじゃないか。
その恩を感じているのか!
今、親父さんが、どれだけ辛い思いをしているか、考えたことがあるのか。誰よりも苦しんでいるのは、親父さんだよ。
逃げて、身を潜めている暮らしが、幸せなわけがないじゃないか。怯えと不安にさいなまれ、死ぬほど、苦しんでいるはずだ。
それでも君たちは、『親父を許さん!』と、御本尊に祈るのか!」
三人とも、返す言葉もなかった。