小説「新・人間革命」人材城 27 2012年5月11日

原谷永太は、弟の正太と正輝に言った。
「俺たちが、ここで負けたら、地域の広宣流布はなかばい。絶対に信心で乗り越えていくばい!」
広宣流布に生きよう! 学会に傷をつけまい』という彼らの使命感、責任感が、勇気を奮い起こさせた。
人間は窮地に陥った時、根底にいかなる一念があるかによって、弱くもなれば、強くもなる。
たとえば、自分の身だけを守ろうとする心は、もろく弱いが、必死になってわが子を守ろうとする母の心は強い。利他の念が、人を強くするのである。
広宣流布は、最高善、最大利他の実践である。その広布のために、『絶対に学会に傷をつけまい』との一念こそ、人間の力を最大に開花させる原動力といえよう。
彼らは、逃げも隠れもしなかった。一軒一軒、債権者を訪ね、頭を下げ、実情を語っていった。
「信心しとって、どういうことだ!」と怒鳴りつける人もいた。原谷兄弟は、忍耐強く、誠心誠意、陳謝し、訴えた。
「必ず親父に代わって、返しますけん」
父親の失踪で、永太ら三兄弟の工務店の信用にも傷がついたことは、間違いなかった。
しかし、父に代わって借金を返済するために、ひたむきに仕事に取り組む兄弟に、周囲の人びとは、関心の目を向け始めた。
「関心」は、やがて「感心」へと変わり、評判を呼び、賞讃となっていった。そして、再び、信頼を取り戻していったのである。
いつの間にか、彼らが、それぞれ営んでいた工務店への仕事の注文は、いずれも父親の失踪以前の三倍にもなっていた。
当初、返済は十年の計画であったが、なんと、わずか三年で完済できたのである。
原谷兄弟は、『失踪した父親と会い、一日も早く安心させたい』と懸命に祈った。
一九七六年(昭和五十一年)、知人から、父親が静岡県の熱海にいるという情報を得た。
兄弟で熱海に向かった。