小説「新・人間革命」 2013年 1月26日 法旗45

 学会員の友人は、病を克服するための根源の力は、人間の生命力にあると言い、それを引き出す方法を示しているのが仏法であると訴えた。
 さらに話は、宿命に及んだ。
 岩田サワは、ハッとした。いちばん疑問に感じていたことであったからだ。
 「自分が自覚していようが、いまいが、人は過去世からの宿命を背負っているのよ。
 岩田さんが、ご主人を亡くしたことも、病に倒れたことも、宿命だわ。
 でも、すべての人が、今世で、その宿命を転換し、必ず幸せになれる道があるの。
 それを説いているのが、日蓮大聖人の仏法なのよ」
 友人の声には、確信があふれていた。岩田は、圧倒されそうになりながら、彼女の話に耳を傾けた。
 友人は、三日間、岩田の家に滞在した。その間に、時には体験を通し、また、御書を開いて、仏法がいかにすばらしいかを述べた。
 そして、「決して、人生をあきらめては駄目よ。あなたには、本当に幸せになってほしいの。
 いいえ、絶対になれるのよ」と、涙を浮かべて語るのである。岩田の胸に、友人の真心が熱く染み渡った。
 友の幸福を願う至誠の帰結は、おのずから弘教となる。折伏とは、慈悲の発露にほかならない。
 岩田は、友人の熱意に打たれて、信心しようと心に決めた。
 〝私の結核は、治らなくてもともと。治ればもうけものだ〟と思った。
 しかし、御本尊を受けるには大阪まで行かねばならないという。彼女は、医師に、大阪に行かせてほしいと頼んだ。
 最初、「とんでもない! 絶対安静です」と言われたが、懸命に頼み込むと許可してくれた。
 〝回復の見込みがないのだから、今のうちに、好きなことをさせてもいいのではないか〟と、考えたようだ。
 岩田は、友人と船で大阪に向かった。そこで座談会にも出席した。
 結核などの病を克服した体験も聞かされた。でも、彼女は、そのまま信じる気にはなれなかった。