小説「新・人間革命」 2013年 2月8日 法旗56

山本伸一は、「たくさんの人が集まれば、意見が異なるのは当然ではないですか」と言って微笑みを浮かべ、話を続けた。
 「学会は、多種多様な人びとが集まって、人間共和を形成しているんです。老若男女がおり、世代も違う。職業も違う。
 生い立ちも違う。出身地だって違います。それなのに皆が全く同じ意見であったら、むしろ不気味ではありませんか!」
 笑いが起こった。
 「でも、信心を根本にして、広宣流布のためという大目的に立ち返っていけば、心は一つになれます。
 そうなれば、活動の進め方をめぐって、多少の意見の違いがあったとしても、互いに相手を尊重し、包容していくことができます。
 よく社会の組織では、方法論についての意見の違いから、憎み合ったり、分裂したりするケースがあります。
 しかし、私たちは、信心を根本にすれば、それを乗り越えていくことができます。ここに、学会の異体同心の団結の強さがあるんです。
 意見の違いから、互いに感情的になったり、憎み合ったりするならば、それは、生命が魔に破られた姿なんです。
 私たちは、何かあったら、すぐに、御本尊という信心の原点に返ろうではありませんか!」
 伸一は、会場を見回した。彼の視線が、前日、懇談した婦人部員の一人をとらえた。
 彼女が、『私が弘教し、入会させたメンバーが退転してしまい、深く悔やんでいます』と語っていたことを思い起こした。
 その問題についても、ぜひ、語っておこうと思った。
 「学会には実に多くの人がおります。 なかには、退転していく人もいるでしょう。
 末法にあって正法を信受し抜いていくことは、極めて難しいことだからです。
 大聖人は『修行の枝をきられ・まげられん事疑なかるべし』(御書一一三六p)と言われている。
 また、竜の口の法難から佐渡流罪の時には、『千が九百九十九人は堕ちて候』(同九〇七p)と仰せのように、多くの門下が退転しています」